私は「どうして殺人をしてはいけないか」という愚問をやめはしない

自殺したがる知人に対して私はいつも思う。
本当に死にたいのならば、殺して差し上げてもかまわない、と。
ただし、本当に死にたいのならば、という条件付きで。


実際には彼らは死にたいのではなく、生き難いだけなので、私も殺したりはしない。
彼らが生きやすくなるように手伝うか、何もできずに傍観するだけである。


どうして人を殺してはいけないか。
どうして自殺してはいけないか。
更にはどうして人を「殺さないといけないか」ということさえ私は考えている。


これらの問いは私には決して自明なことではない。
少なくとも私にとっては、殺してはいけない人間も、自殺してはいけない人間も存在しない。
人は殺すべき時に殺し、自殺するべき時に自殺するものだと信じている。
だから「その時」とはいったいどういう場合なのかを常に考えている。


犯罪に巻き込まれた際の正当防衛、徴兵された際の戦闘、国のお墨付きで殺人行為をする死刑制度、苦痛に耐えかねる人間の尊厳死、独裁政治で国を滅ぼしかけている人物の暗殺、、、
そのような事例を考えれば、殺人も自殺も場合によりけりだということは、常識だとさえ思える。


しかしこのような疑問を持つこと自体が不道徳で、非常識で、心の貧しい行為だと怒る人がいる。
たとえば今適当に検索をかけたところ、私のような人間に対して「はあちゅう」さんは大変お怒りのご様子である。


この間テレビで


「なんで人を殺しちゃいけないのか説明してください」


って言ってる高校生を見て、


「は?」って思った。


もしあれが私の子供だったら、末代までの恥。


世の中には説明の要ることと要らないことがあって、


その質問は後者のカテゴりーに属するでしょ。


生きるのに苦労してないからそんな質問出てくんだろうね。


あたしも大して苦労してないけどさ。


生きることがどれだけ大変なことか知ってたら、


そんな質問できなくない?


そういう低レベルなことをぼやいてる奴らをまとめて、カルカッタマザーハウスとかルワンダとかに全員ボランティアに行かせるべきだと思った


向こうも迷惑だろうけど、頭下げて勉強させてもらいに行くべき。


必死に生きることにすがりつく人間を目の当たりにしたら、


「なんで殺しちゃいけないか」なんて言えなくなるはず。


http://blog.livedoor.jp/springflavor122/archives/50165246.html



はあちゅうさんは殺人をしてはいけない人間に対してもこれだけ怒るのだから、実際に殺人をした人の存在など考えたくもないのかもしれない。
彼女は殺人者に対しては「末代の恥」以下のどんな称号を授けてくださるのだろうか?


私の祖父は戦争でアメリカ人を殺している。
私の仲間の中国人の祖父は、ゲリラ活動で日本兵を殺している。
私の姉のアメリカ人である夫の父は、日本兵を機関銃でなぎ殺している。
姉の結婚式にて、そのお父さんが足を引きずって歩いていたので「どうしたのですか?」と訪ねたら、笑いながら「日本兵に撃たれた」との返事をいただいた。)


人を殺すのは悲しいことだ。
私の祖父が、仲間の家族が、義理の家族が人を殺したことは悲しい。
しかし私は彼らの殺人を責める気にはなれない。
だからこそ、私は問い、悩み、考える。


どうして人は人を殺してはいけないのか、と。
どうして人は人を殺さないといけないのか、と。


戦争に限らず、殺人を要求される場面はいくらでもある。
時代や事件が人に殺人行為を求める。
どんな良き隣人であっても、彼らは時として人を殺すことがある。
もちろん殺された人は気の毒であり、どのような理由があれ人は自分の罪を正当化することはできない。
しかし人は罪を犯してしまうものだ。誰一人例外はない。


殺人をしたことのない人は、たまたま運が良くて人を殺さないで済んでいるだけである。
運が良かっただけの人間が、自分を罪とは無縁な高みに置いて、上から目線で「末代の恥」と心貧しき者たちにご高説を賜わる。


しかし殺さないといけなかった人間を目の当たりにしたら「末代までの恥」なんて言えなくなるはず。
そのことを考えられないのは、単に歴史や社会に無関心だからとしか思えない。


私は殺される人間がより少なくなる社会を望む。
だが人が殺されなくてはいけない時があることも知っている。


はあちゅうさんの言うような「人間力」や「愛国心」を持っている人だって、他人を殺すことがある。
殺人を本当に減らしたいのならば、まず人は人を殺すものだということを認識し、その上で殺人の発生するメカニズムを解明し、その予防策を考えるべきである。
だからこそ私はこの愚問を繰り返し、問い続ける。


「どうして人は人を殺してはいけないのか?」


「どうして人は人を殺さないといけないのか?」