怪談

新しい職場では、私の技能が未熟なものだから、私は「時間」でそれを補っている。
そんなわけで近頃の私はクレイジー仕事デイズ。
睡眠不足が脳に染み付いて、今日も空が眩しすぎる。


立っていても眠れるし、歩いていても眠れてしまう。
夢と現実の境目がたまに怪しくなる。
だから、これからする話はきっと私の夢の話に違いない。


事の起こりは、先月。
知人が私に面白い画像を送信してくれた。
呪いの絵だ。
私がそういうのが好きなことを知っての心遣いというやつだ。
だがそれは有名な画像で、私も既に知っているものだった。


美人なアジア系女性の肖像画
それが送られてきた画像だった。よくある普通の美人画だ。
だが そんな平凡な絵画も
「恋人に別れを告げられた女性が自殺する前に描かせたという絵」
といういわくをつければ、いかにも何かありそうな呪いの画像のできあがりだ。
一時、ネットのあちらこちらに貼付けられていたのでよく覚えている。
怪談話としては、平凡すぎて芸のないものであった。


なんだ、つまらない。


私がそう思った瞬間だった。
その画像の目がギョロリと動いた。
少し驚き、感心した。


前言撤回。
やるじゃないか。
彼にこんな凝った芸当ができるとは思わなかった。


静止画と思わせておいて、突然お化けの顔を出したりするgif画像がある。
そういう突然動いて人をビックリさせる画像はありふれたものだ。
だが私は彼がそんなことをするとは思っていなかったので意表をつかれた。
だから私は彼に「よくできていて、驚いた」と素直な感想を述べた。


それに対する彼の返答は「そんなこと、してないよ」だった。


私は不吉なものが大好きだ。
だから動くはずがないのに動いた美人画を、私はデスクトップの画像にした。
いつも、その女性は私を見ている。
今もウィンドウの影から顔を半分覗かせている。
愉快である。


夜中、パソコンを消し忘れると暗い部屋で彼女の顔だけが燐光を放って浮かんでいる。
笑える光景だ。
でも最近、パソコンが消えているときも彼女の顔が画面に見える錯覚を覚える。


それで昨日、私はキーボードの上にある物に気づいた。
それは細長い一筋の線だった。
指で押して、つまみあげてみると、それは長い1本の髪の毛だった。
短髪の私にはありえない、女性を呼んだことのない、この部屋にはありえないはずの長い1本の髪の毛だった。


これは私の夢の話である。
寝不足の私が見てしまったものであるに違いない。
たとえ今も私の眼の前に、その髪の毛が実在していたとしても。
髪の毛なんてどこにでも実在しているはずのものなのだから。