同じ職場の派遣社員の契約が更新されないことが分かった。
つまりはクビだ。彼は次の派遣先を探さないといけない。


それは突然のことで、明日は我が身である。
要らないと判断されればすぐに捨てられる。
私には何故か、それが楽しい。


しかし他人が捨てられるのを見るのは少し残念だ。
特に彼は飲み仲間だったので、寂しくなる。


そして私は何故か派遣会社からその現場に派遣されている派遣社員たちの代表になるように言われた。
昨年まで印刷屋をしていて技術力において彼らより一段も二段も劣る私が代表とは困ったものだ。
もっとも、それは派遣会社からの伝言を他社員に伝えるだけの雑用係なので私にこそ相応しい役ともいえる。


私は今は何も望んではいない。
正社員の地位も、友人も、恋人も、尊敬も、名誉も、安定した給料も、家族も、家も、車も、どうでもいい。
自分の会社の社員を捨て、仲間を捨てて一人になった私に望んでいいものは何もない。
私もいつかは捨てられるべきであろう。


ただ私もクビになってしまう前に、なるべく多くの技術を手に入れておきたい。
今の職場には設備も人材も豊富にある。
高価な道具を無料で長時間も使わせてくれる機会は滅多にあるものではない。
優秀なエンジニアからお金をもらいつつ指導を受けられるなんて、まるで自分が詐欺師になったような気分だ。
捨てられるその日まで、もっとこの職場をむさぼり喰らいたい。


私は何も望んでいないが、とても楽しい。