格差社会の終わらせ方

金融政策とは効率的な所得の再分配政策でもある。
再分配される以上は、利益を得る者と損をする者、勝者と敗者が分かれる。


インフレは資産価値を減らす。デフレはその逆で資産価値が上がる。
それならばデフレの方がいいと思う人もいるかもしれない。


だがデフレで得をするのは既に十分な資産を持っている人だけである。
何も持たない人は何も持たないままで、既に持っている者はより富める者になる。
つまり所得格差が広がるわけである。


インフレとは資産に対する課税であると考えることもできる。
全貨幣量が一千万円しかない世界を考えてみよう。その世界には900万円を持つ金持ちと100万円しか持たない貧乏人がいたとする。


その格差は800万円である。


そこで政府が一千万円を新たに刷って財源にしたとしよう。
幣の量が二倍になれば、貨幣の価値は半分になる。インフレである。


すると政府は実質的にインフレ前の500万円に相当する収益を得る。
金持ちは資産価値が半分になり450万円しか持たなくなる。
貧乏人は50万円になる。
こうして金持ちと貧乏人の格差は400万円に縮まった。格差社会が以前の半分以下になったのである。


だが、ふざけるな。格差が減っても、結局、貧乏人だって財産の半分をなくしているじゃないか。
そう怒る人もいるだろう。
だが、違うのである。


政府は税収を得なくてはいけない。
だがインフレ後の政府は既に500万円の収益を持っているので、これ以上の徴税は必要ない。
もし政府が自分で一千万円を刷らないのならば、500万円は徴税で集めないといけない。
貧乏人の税金を金持ちの4分の1にしても徴収額は400万円と100万円。貧乏人は無一文になってしまう。


つまりインフレには貧乏人よりも金持ちから強制的に徴税することで所得を再分配する効果もあるのである。
そして金持ちから集められた税金は福祉や教育と言う形で貧乏人に還元されていく。
インフレによる資産の目減りなど、すぐに回収できるくらいの見返りがあるのである。


現実には、今の日本はデフレで、金持ちはより金持ちになり、一方で税収不足から福祉や教育予算が削られて貧乏人にしわ寄せがいくようになっている。
デフレでは物が売れないから、物を作っている人間は損をする。
デフレでは資産価値が上がるから、何も作らないでも土地や資産を持っているだけの人間は得をする。
政府は物作り立国などと言っているようだが、現実には物を作らない人間が得をするようになっているのである。


格差社会を拡大させないことを誰もが熱心に望んでいる。
そのための手段は明白に分かりきっていて、デフレを終わらせるのが一番の特効薬である。
具体的には2〜4%のインフレ目標を導入することである。
それなのにデフレについて熱心に語る人は少なく、その自明な解決手段を実行する意志のある人は絶望的なまでにいない。
唱えられるのは構造改革や国際競争力という何の効果もない呪文だけである。
水銀を永遠の命の妙薬と信じて飲み続けて早死にした秦の始皇帝を思い出す。
私たちは構造改革を飲み続けて、景気が良くなる日を待ちわびながら、衰弱していくのである。