タイム 涼介「あしたの弱音」

under52008-02-05


最高にカッコいい青春物語。
それがこの「あしたの弱音」である。


青春物語とは何者でもない時代の物語。自分というものに最も疑問を持ち、こだわり、悩む時代の物語だ。
だから青春物語の主人公は、たいていかっこ悪い。
独り立ちできない若者が自分にこだわる姿を描いて、普通はかっこ良くなるわけがないのである。
それでいいのだ。カッコイイ青春物語なんて失敗作でしかない。


だが不条理ギャグマンガとして連載を始め、
主人公「弱音」(そういう名前なのである。)の家を爆破して、通う中学校の屋上で自給自足を始めさせ、彼の髪型をチョンマゲにした時、このギャグマンガは奇跡のようにカッコイイ青春物語へと変貌したのである。


「弱音」は親から見捨てられたので一人で生きていかないといけない。
彼はその生活の場を中学校に選んだ。
中学校という世界で既に自立してしまった異分子である。


屋上にいる最恐の不良として怖れられる彼は、犬と乱闘して血まみれで登校したり、事務員の手伝いにチェーンソーを使っている時に不良の襲撃にあうなどして無駄に名を上げていく。
だが生きることに忙しい彼は、そんな周囲のことなんておかまいなしだ。


そんな彼はクラス替えをした日に孤独で成績の悪い不良少女と知り合う。
弱音は彼女に好意を示すが、売春婦の母親を嫌う男性不信の少女は彼に憎まれ口をたたくばかりである。
それでも彼らの距離は少しづつ変化する。


そんな時、彼女の母親は父親の分からない子を妊娠し、少女は高校へ進学することを決意する。
彼は自給自足から農業に目覚め、自分の行く道を確信する。

いずれ思い出す。自分で食い物を作れるヤツが一番強くてエライって。
でも もし噂通り「世の中金」だったとしても 俺は世の中じゃねえから関係ねぇ


そして彼は、農業学校への進学が決まり、
少女は高校受験に失敗し、母親は妹を生んで心臓発作で死亡してしまう。


その日の夜、生まれたばかりの赤ん坊を抱えながら彼らは話す。

「愛してるぜ 特に お前」


「あたしは……アンタにしろ愛なんてとてもじゃないよ……
でも いてくれたら まぁ…死ぬよりはマシって思う」


「いいじゃねぇか ずっと。 いくぞ」


それからすぐに彼女は赤ん坊を置いて失踪してしまう。
そして五年の月日がたった時、彼は言うのだ。

あいも変わらず 変わり続ける俺がいて


あいも変わらず 愛する自分がいる


子供のままでいたいなんて思わない 元々大人なんていないのだから


そして「弱音」は最期までカッコ良く突っ走る。
その詳細をここでは語らない。
彼らがどうなったのかは是非ともその目で確かめていただきたい。