ヤクザの知人がうらやましい?

私の知人の何人かはヤクザになった。
就職難と不況が彼らにその職業を選ばせるのを後押しした。
「だから治安の維持には経済の成長が必要で、治安維持に地域共同体の復活とかを言うのは間違いだ」と私は主張するのである。


このことを人に言うと、時おり私の本題には興味を示さず、「ヤクザに知人がいる」という部分に食いつき、更にはうらやましそうにする人がいるのである。
話の通じなさにガックリきてしまう。自分の主張というのはなかなか相手に伝わらないものである。
話を聞くと、彼らは何か私がトラブルに巻き込まれた時、そのヤクザがさっそうと現れて
「おうおう、兄ちゃん。俺らのツレになにさらしてくれとんじゃ」
と凄みを効かせながら私の敵を撃退してくれるとでも思っているらしい。


そんなこと、あるわけないでしょうに。
何かトラブルに巻き込まれたら警察に通報するか、弁護士に相談すればいいのである。
何故にそこでヤクザが出てこないといけないのか。


それに彼らはあれでけっこう忙しいのである。
飲み屋で私的な馬券売り場を開いてノミ行為をしたり、入手困難なバッグやチケットを集めて売りさばいたり、山に産業廃棄物を捨てにいったり、浮浪者や外国人に斡旋する仕事を探して営業にかけずりまわったり、他にもすることは山ほどある。
一般人の金にもならないケンカになんて関わってるほど暇人ではないのだ。


時には「そのヤクザを今度の飲み会に呼んでよ」などと言い出す輩までいる。
ヤクザと知り合いになってどうするつもりなのだろうか。
何か得になることがあると思っているのならば勘違いもはなはだしいし、興味本位で言っているのなら少し不愉快だ。
人の知人を珍奇な動物扱いする無礼さに腹が立つ。
もっともヤクザという職業は、そういう世間の嘲りと蔑視に反論できる立場にはない。
彼らは社会秩序から外れたのだから、社会に対して抗弁する資格を持たないのである。


それに彼らは基本的に「友だちがい」のない奴らである。
仮に私が先の言葉を受けて飲み会に誘えば、間違いなく以下のような返事が来るはずだ。


「ああ?今度の土曜日に飲みをするからこいだぁ?
おい、ボケてるのか。お前はいつから人様を電話一本でほいほい気軽に呼び出せるほど偉くなったんだ?えっ、おい、こら。
お前は俺の兄貴か?親父か?違うだろ。くだらない用事で電話なんぞするな、このマヌケ隊長!」


上の会話は想像だが、それと似たような会話を昔もよくしていた記憶がある。
少なくとも、誘いを拒絶されることだけは確かだ。
自分を利用しようとするだけの人間を嫌悪するのは当たり前のことだからだ。


そもそも私は秩序ある社会生活を選んだのである。
ならば、その世界から外れた人間とは馴れ合うべきではない。
お互い その住む世界が違ったことは承知している。
旧知の仲として、飲んだり、歓談することはあっても、頼りにしたりはしない。
せいぜい売り切れた野球のチケットを割高で購入したり、ノミで売っている馬券を買うくらいである。別にヤクザに知り合いがいなくてもできることしかしていない。


その分別を守っているから、彼らとは今でも交流できるのである。
無関係なその他大勢の前に呼びつけるなんて、その分別を著しく逸脱している。
見せ物にされるか、周囲をビビらせる材料に使われるのが目に見えている。
そんな下心が丸見えの誘いをかけて怒らないほど、私の知人はバカではないのである。